戦略的に考えるわが家の将来設計
1.外部環境の変化を考える ~農業を取り巻く諸事情~
① 農業にもあてはまる環境の分析のフレームワーク
事業経営者が自社の成長戦略を立てるにあたり、最初に取り組むのが、事業を取り巻く環境が、将来どのように変化していくのかを予測することです。
この「外部環境の分析」の手法として、様々なフレームワークが考案されており、これは農家が将来設計を考える上でも同様に役に立つものです。
イ.PEST分析
世の中の動きのような、大きな視点から外部環境を分析する(= マクロ環境分析)手法として有名なのが、「PEST 分析」と呼ばれるものです。「政治(Political)」「 経 済(Economic)」「 社 会(Social)」「 技 術(Technological)」という、あらゆる事業に影響を与える 4 つの視点から、自身の事業にどのような変化をもたらし得るかを大局的にとらえていく方法です。
ロ.3C分析
事業に直接関係するような、身近なところから外部環境を分析する(=ミクロ環境分析)手法として有名なのが、「3C分析」です。分析する対象である「競合(Competitor)」「顧客(Customer)」「自社/わが家(Company)」の3つの頭文字をとって「3C」と呼びますが、このうち「競合」と「顧客」がここでいう外部環境にあたり、「自社/わが家」の分析は次ページで紹介する内部環境にあたります。
② わが家を取り巻く環境の変化を予測する
「エトス」「パトス」「ロゴス」とは、古代ギリシャの哲学者であるアリストテレスが弁論術の中で説いた、人を説得し、動かすための3つの要素のことです。この3つの要素は、先ほど提示した「コミュニケーションの土俵に上がってもらう」
「話を聴く気持ちになってもらう」「話を理解してもらう」というコミュニケーションのステップそれぞれに密接に関係しています。
- 例)日本の農産物輸入の規制が緩和される
- チャンスと捉えるならば……
「その農産物の消費が喚起され、ウチが作っているものの需要も高まるのではないか ?」
脅威と捉えるならば……
「価格競争力のある海外からの農産物が市場を席捲し、ウチが作っているものが売れなくなるのではないか ?」
2.内なる環境変化を考える ~家族の成長と事業の拡大~
① 農家にとっての内部環境分析とは
事業戦略を立てるにあたって、経営者は「外部環境」の分析と同時に、自社の強みや課題を洗い出す「内部環境」の分析を行います。
農家にとって最も大きな内部環境要因といえば、「家族」です。家族の成長と、その構成の変化を軸に、事業展開のイメージを組み立てていきます。
② 内部環境の変化を時間軸上で捉える
イ.家族構成と労働力供給
家族の構成員が、この先10年間にどのように年齢を重ねていき、また事業への参画の仕方がどのように変化していくかを具体的に思い描きながら、各年次において見込める労働力の供給量を算出しましょう。
ロ.事業拡大と必要労働力
この先10年間に、どのように事業を展開していくかをイメージし、各年次において必要となる必要労働力を算出しましょう。
ハ.事業拡大と必要投資
この先10年間の事業の展開を踏まえて、規模拡大や農業機械の導入などの必要投資を、時間軸の上で検討してみましょう。
ニ.ライフイベントと家計
この先10年間に、家族の中でどのようなライフイベントが起きうるかを想定し、そこで必要となる学費やマイホーム資金などを、時間軸の上で検討してみましょう。
3.運営体制と求められるスキル
① 経営目標と長期計画を立てる
農業経営を取り巻く環境の変化や、自身の家族に関する個別の事情等を踏まえて、長期的な視点でこの先の事業をどのように展開していくかを考えます。
この長期的な事業展開を具体化するために、数年後に到達したいと考える「経営目標」と、そこまでの道筋を描く「長期計画」を策定します。これらの策定にあたっては、どちらか一方だけが考えるのではなく、夫婦間でそれぞれの考えを共有し、意見を交わしながらまとめ上げていくことが大事です。
② 長期計画と年間計画に一貫性を持たせる
農作業としての段取りを想定した年間計画は毎年策定していても、長期的な事業計画と連動性を持たせて年間計画を作ることはあまりなかったかもしれません。
「10 年後に○○を△△にまでの規模にする。その実現に向けて、1 年目の今年は□□を実現する」というように、長期計画をブレイクダウンする形で年間計画を立てていくことで、経営目標の実現の可能性が高まります。
長期計画を踏まえた年間計画を策定する機会を定例行事として設定し、夫婦間でしっかり時間を取って話し合って策定することをお勧めします。
③ 計画の進捗状況を月次でチェックする
農作業としての作業進捗確認とあわせて、経営目標の達成に向けた活動の進捗確認も意識しながら、月次で定期的にミーティングの場を持ちます。この場で、進捗の遅れが発生していないかどうかや、事業環境に想定外の変化が起こっていないかなどを話し合い、対策を検討します。