農村現場が開発してきた家族経営協定の特質 〜その多様性や普遍性〜
1.経営改善に活かす協定の取り組み
家族経営協定は、多様な農家がその手法を採用・実行する中で、理念やもともとの想定よりも現場の取り組みの中から、その有効な活用方法が開発されてきたと言えます。
とりわけ、農業の経営改善を進めて行くプロセスにおいて、次の①~④のような視点から家族経営協定は活用されてきたと、筆者はこれまでの事例調査等の蓄積から認識しています。
- ポイント
- 協定を経営改善に活かす視点
①協定を機に経営の現状確認を行うこと→それは新たな経営展開への布石に
例えば、経営上の役割分担、各人の報酬額などを明記、現状における経営の到達点や、当面取り組むべき経営課題等を具体的な文章で表現する②経営の成果とは何かを見つめ直す契機に→協定は幅広い視点を示唆する
利益追求のみではなく、時間的なゆとりや、心のゆとりの確保へ
例えば、「連続休暇」の取得を目指すと、経営全体の組み立ての再検証を促す③経営で何を目指すか→協定はその明確化を図る媒体に
例えば、経営規模の拡大目標、環境保全型農業への取り組みなど④個人の能力発揮に向けて→協定はその条件づくりとなる
例えば、家族内で部門別責任者の明確化、資格給や経営の貢献に応じた賞与等
2.日本的なスタイルの協定が定着
家族経営協定が全国各地で行われ、その中で、わが国独自の性格を有したいわば「日本的なスタイルの協定」が形成されてきたと筆者は捉えています。
それは、協定当事者の権利や義務を厳格に定める契約行為というよりも、家族内各人の意欲向上と相互の意思疎通の観点などを重視してきた傾向が強いと言えます。この特徴を次の①~③に整理しようと思います。
- ポイント
- 日本的なスタイルの家族経営協定の特徴
①厳格な契約行為というよりも家族内の意思疎通と各人の意欲向上を促す傾向
②農家が開発した協定の多様性と、協定を対話の手段として普及してきた普遍性
③契約に関する通説と家族経営協定の若干の相違点
→ 例えば、「多様な解釈の余地を残す表現」を契約行為では一般に避けるべきとされるが、家族経営協定書では、こうした表現を盛り込みつつも、それを家族内の話し合いで随時埋めて行く傾向がある
3.農業農村における男女共同参画の推進と家族経営協定
現状の農村現場における男女共同参画をめぐっては、女性農業者の資産形成・経営参画・社会参画といった取り組みを促進することが、今後とも中心課題と言えます。
家族経営協定は、この3つの要素の相乗効果を生み出す機能を有してきたと思います。例えば、家族経営協定を通じて、簿記記帳を含む経営への責任ある参画を続けてきた女性農業者が、同時に、協定で明確となった報酬を活用して、月々一定額の貯蓄を行い、その貯蓄を原資として自分名義の固定資産(農地等)を購入した事例があります。こうした女性名義の資産形成は、女性が新たに起業する時のいわば土台にもなり、それは社会参画への道筋を拓くものにもなります。
※家族経営協定は、女性の社会参画を促す重要な契機にもなってきました。
- ポイント
- 【女性の社会参画を促進する協定項目
①家族構成員の各種研修会への参加を促し、各人のスキル向上を図ること
②女性による起業活動、農村の意思決定の場(農業委員等)への参画に向けた条件整備を
図ること(→ 家事分担等も含め家族による協力態勢の確立等)