農作業改善のポイント
日々の農作業を安全に行うために、あるいは快適な職場環境を作るために、阻害要因となるのはどんなことでしょうか。その要因を取り除くために注意すべきこと、対応のポイントなどを順番に見ていきましょう。
(挿絵は全て、農研機構農業技術革新工学センター HP 内「農作業現場改善チェックリスト」を参考に作成)
1.農業機械
- □ 騒音・振動の小さくなるエンジン回転で作業します
- □ 定期的に整備して、ベアリング、チェーン等の摩擦音を減らします
- □ 耳栓、イヤマフや防振手袋を使用します
① 振動
振動には全身振動と手腕系振動があります。座席からの振動が不快な場合は、サスペンションシートの調整が体重とあっていないことが多いです。ばねを一番緩くしたときの座っていないときの座面の高さと全体重をかけた時の座面の高さを測り、ばね調節を固くしていって、座った状態でフルストロークの中間まで座面が沈むように調整すれば万全です。ふわふわ感があっても、作業性には影響しません。歩行型トラクターや刈払機のハンドルからの振動は、定格回転数の時にハンドル振動が大きかったら、ほんの気持ち回転を上げるか下げれば振動は収まります。微妙な調整で快適になります。
② 騒音
騒音がひどい場合は、イヤマフ等の個人防護をしましょう。耳栓はつけ外しのたびに指や手袋の汚れが付き内耳の汚れになることがありますから、避けたほうがよいでしょう。イヤマフは若干の圧迫感があるでしょうが慣れれば問題ありません。
2.作業環境
衛生問題、職場施設の問題、温熱環境、屋内の作業空間・換気の問題、作業動線の問題などが考えられます。
① 衛生問題
作業場所が自宅から近い場合ばかりではありませんし、圃場が分散している場合もあります。特に、女性農業者の快適な職場づくりには、男女別の清潔なトイレの設置が必要です。設置の際には、水道及び清掃と汚物処理問題を地域で相談するとよいでしょう。
② 職場施設の問題
更衣室やロッカーは、従業員が仕事の準備をするための大切な場所であり、男女別に清潔に保つことが必要です。また食堂や休憩室、談話室などを設置することも、従業員の疲労やストレスの軽減につながるため、快適な職場づくりに欠かせないポイントの一つといえるでしょう。
③ 温熱環境
初夏から秋にかけては、屋外作業は高温にさらされる場合があります。また、ハウス内作業では通年にわたり高温環境となります。トラクターなどはエアコン付きの ROPSの導入で環境改善可能ですが、ハウスではスポット送風装置の導入事例があります。
近年の地球温暖化の影響もあってか、猛暑日の日数が毎年増えている状況下では、万全な熱中症対策が必須であり、体に配慮した作業計画と水分・塩分補給が大切です。農林水産省のホームページに農業女子プロジェクトメンバーの熱中症対策が掲載されていますので、次ページで紹介します。それぞれの作業に合わせて、工夫を重ねている様子がわかります。
農業女子プロジェクトメンバーに熱中症対策を聞きました
十分な睡眠と旬のものを取り入れたバランスの良い昼食が重要!
グループで作業することで、従業員の変化にいち早く気づけるようにしています。
秘密兵器、扇風機付き作業服はとても涼しいですよ。皆さんもぜひお試しください !!
ウォーターバッグは、3分の1程度水を入れ、空気を抜きながら蓋を閉めます。平らにして凍らせたら、準備完了!
背中が冷え冷えしていいですよ。数百円で揃います。
農林水産省 農作業安全×農業女子プロジェクト「安全な農作業について考えてみましょう」リーフレットを参考に作成
④ 屋内の作業空間・換気の問題
野菜類の収穫後の選別、調製、箱詰めなどは屋内作業になります。作物の種類により必要な面積が異なるでしょうが、作業に適した照明と換気、機器類のレイアウトが大切です。手暗がりにならないように照明を配置しましょう。また、ネギ皮むき作業のように土埃が舞う場合もあります。マスクを着用するとともに適切な換気を行いましょう。
⑤ 作業動線の問題
集出荷場の作業動線が短くなるよう、配置を工夫しましょう。特に複数の作業者がいる場合には、円滑な移動の妨げとなるばかりでなく、移動距離も長くなります。動線がクロスすることなく、荷受けから荷出しまで 1 本の線になるようにすると合理的な作業が可能になります
3.作業姿勢
どのような姿勢であっても、長時間同じ姿勢を保つことは疲労の原因となります。
① 作業内容と地形への対応
② 同じ姿勢の回避
機械化されていない移植などの作業ではしゃがみ姿勢が頻繁にあります。足や腰、膝、下腹部への負担を小さくするような作業計画を立て、作業を交代したり、休憩をとったりしましょう。
③ 作業の組み合わせ
頻繁な役割交代も有効です。立ち姿勢と座り姿勢を交互にとれるよう、作業の組み合わせを工夫しましょう。
④ 机といすの使用
室内での選別箱詰め作業では、床に座るのではなく、机といすを使うようにしましょう。長物の箱詰めでは椅子を使わず、机の面を斜めにして立って行うと疲労軽減につながります。
⑤ しゃがみ姿勢への対応
しゃがみ姿勢が続くような場合は、太ももなどを圧迫しないような作業ズボンを利用しましょう。血行障害を避けることができます。作目によっては高設栽培にしたり、露地栽培の場合にはアシストスーツを使用することも検討しましょう。
4.作業の割り振りによる軽労化
① 作業ローテーション
農作業は比較的単純単調労働になります。常に緊張を強いられるよりはよいのですが、単調な時間が続くといざというときの事故回避が遅れることがあります。複数人作業では一定時間ごとにローテーションをするなどの工夫が必要です。
ここでは、重い物の運搬とそれ以外の作業を交互に組み合わせたり、休憩を割り当てています。
また、刈払機のように騒音・振動の大きい機械を操作する時は集草作業や休憩を 30分ごとに入れ、体への影響を少なくします。
② 運搬車の利用
農業は、資材等の置き場や集出荷場から圃場、圃場内、圃場間の移動、また、畜産現場においても飼料の給与、糞尿の処理等の作業は常に移動を伴います。重量物運搬や、軽量でも頻繁な運搬の作業では人力依存ではなく、一輪車、台車、フォークリフト、軽トラックなどを使い、負担の軽減化を図りましょう。
③ 運搬時の工夫
形状が一定でかつ重さも一定であれば、同じリズムでの扱いになり、負担は比較的小さいのですが、形も重さもバラバラなものを運搬するときは、腕や腰への負担軽減のため持ち上げ高さや運搬距離が大きくならないように工夫しましょう。
5.マニュアルハンドリングの見直し
農業の機械化が進み機械操作時の負担は小さくなりましたが、合間にあって機械化されず、人の巧みさに頼る部分は相対的に負担が大きくなっています。それを解消するには、従業員との検討やミーティングが欠かせません。作業改善のための定期的な話し合いの場を、月間スケジュールに組み込むのもよいかもしれません。改善を「継続」していくための仕組みを作りましょう。
6.現場改善チェックリスト
自社の職場環境が従業員にとって「働きやすい職場」になっているかを判断するには、現場を複数の眼で点検し、改善を行うことが肝要です。いろいろな職種に向けたチェックリストが公開されていますが、革新工学研究センター(旧生研機構)から公表されている「農作業現場改善チェックリストと解説」(表 1)が参考になります。
また、現場改善チェックリストと重複する部分もありますが、より簡単にチェック可能な点検リストもあります。職場の労災担当者が中心になって行う室内用と農業機械用の点検リストも表 2.1 と表 2.2 に示します。